インフラエンジニアを目指す人に、最初の資格としてよく挙げられるのがITパスポートです。
ITに関する知識を幅広く学べる国家試験ですが、取得すると転職で有利になるのでしょうか。また、インフラエンジニアの現場で評価されるのでしょうか。
私は20歳からインフラエンジニアとして働き、現在46歳です。ネットワークを中心に、サーバ、ファイアウォール、クラウドを含むインフラ業務に26年間携わってきました。仕事では、エンジニアの経験やスキルを面談で確認する機会もあります。
今回、自分の現在地を確かめるため、事前の試験勉強をせずにITパスポートの過去問題100問を解いてみました。
結果は100問中68問正解。過去問道場上の判定はBでした。ただし、これは無料サイトでの演習結果であり、本試験の合否を示すものではありません。
この記事では、分野別の結果から分かったことと、ITパスポートが転職や現場でどこまで評価されるのかを、私の経験をもとに整理します。
結論|未経験者の入口として意味があるが、現場の技術力を証明する資格ではない
最初に結論です。
ITパスポートは、新卒やIT業界未経験者が、ITの基礎を学んだことを示す最初の資格として意味があります。
これまで、エンジニアの経歴やスキルを確認する機会がありましたが、ITパスポートの有無だけで技術力を判断したことはありません。
現場で確認されるのは、資格名だけではなく、次のような経験です。
- どの工程を担当したか
- どの製品やサービスを扱ったか
- 障害をどのように切り分けたか
- 分からないことをどのように調べたか
- 顧客やメンバーへ説明できるか
- 手順や判断理由を文書にできるか
- トライアンドエラーを続けられるか
そのため、ITパスポートを取得しただけで、インフラエンジニアとしてすぐに優位に立てるわけではありません。
しかし、無意味な資格でもありません。
未経験者がIT業界全体の用語を知り、次に学ぶ専門分野を決める。IT業界のスタートラインに立つための最初の一歩としては、取得する意味があると考えています。
無勉強で過去問題100問を解いた結果
今回利用したのは、ITパスポート試験ドットコム「ITパスポート過去問道場」です。
過去問題から出題され、解答後に解説を確認できる無料のWeb問題集です。分野別の成績も表示されるため、自分の得意分野と苦手分野を確認しやすいサイトでした。
無料でここまで学習を支援してくれる、ありがたいサイトだと思います。
私の結果は次のとおりです。
| 分野 | 正解数 | 正答率 |
|---|---|---|
| ストラテジ系 | 22/39 | 56.4% |
| マネジメント系 | 14/16 | 87.5% |
| テクノロジ系 | 32/45 | 71.1% |
| 全体 | 68/100 | 68.0% |

なお、68%とB判定は過去問道場での演習結果です。実際のITパスポート試験における評価点や合否を示すものではありません。
本試験は単純な正答数ではなく、IRT(項目応答理論)に基づいて評価点が算出されます。合格には、総合評価点600点以上に加えて、ストラテジ系・マネジメント系・テクノロジ系の各分野で300点以上が必要です。
実務経験が結果に出た分野
最も正答率が高かったのは、マネジメント系の87.5%でした。
26年間のインフラ業務では、技術だけでなく、次のような仕事にも関わってきました。
- プロジェクトの進行確認
- 作業計画と手順書の作成
- 障害対応
- 顧客やベンダーとの調整
- 運用ルールの整理
- 変更作業と切り戻しの検討
- 後輩やメンバーへの説明
こうした経験が、プロジェクトマネジメント、サービスマネジメント、システム開発技術などの問題に生きたのだと思います。
テクノロジ系では、ネットワークが10問中8問正解でした。ネットワークやセキュリティなど、普段の業務で扱っている分野は、特別な試験対策をしていなくても比較的答えられました。
インフラ業務だけでは身につきにくい知識もある
一方、ストラテジ系の正答率は56.4%でした。
特に、企業活動は5問中1問正解でした。経営戦略、法務・知的財産、財務・会計といった知識は、インフラエンジニアとして通常業務を続けているだけでは、自然に身につくとは限りません。
正答率が低かった主な分野は、次のとおりです。
| 分野 | 正解数 | 正答率 |
|---|---|---|
| 企業活動 | 1/5 | 20.0% |
| 経営戦略マネジメント | 5/10 | 50.0% |
| 法務 | 5/9 | 55.6% |
| アルゴリズムとプログラミング | 0/1 | 0% |
アルゴリズムとプログラミングは出題が1問だけなので、この結果だけで得意・不得意を判断することはできません。ただ、インフラ実務とは異なる考え方が求められる分野だと感じました。
インフラエンジニアは、サーバ、ネットワーク機器、クラウドサービス、セキュリティ製品などを組み合わせ、業務で利用するIT基盤を設計・構築・運用する仕事です。
一方、財務諸表の読み方、損益分岐点、マーケティング、知的財産権などは、担当業務で扱わなければ学ぶ機会があまりありません。
企業の情報システム部門では、次のような仕事を通じて、財務や法務に近い知識へ触れる場合があります。
- IT予算の作成と管理
- 製品やクラウドサービスの調達
- ベンダーとの契約
- ソフトウェアライセンスの管理
- 個人情報や機密情報の取り扱い
- 内部統制やシステム監査への対応
ただし、情シス担当者なら全員が財務や法律に詳しいという意味ではありません。会社や担当範囲によって、経験する業務は大きく異なります。
プログラミングもインフラとは別の専門領域
アルゴリズムとプログラミングの問題も、インフラ業務の経験だけでは答えにくい分野でした。
多くの現場では、インフラエンジニアとプログラマー・開発エンジニアの責任範囲が分かれています。
| インフラエンジニア | プログラマー・開発エンジニア |
|---|---|
| サーバやネットワークの設計 | アプリケーションの設計 |
| OS・ミドルウェアの設定 | プログラムの実装 |
| クラウド環境の構築 | 業務機能の開発 |
| 監視・バックアップ・障害対応 | テスト・改修・機能追加 |
| セキュリティと通信制御 | アプリケーション内部の処理 |
インフラエンジニアは、既存の製品やサービスをどのように組み合わせ、業務を支える仕組みを作るかを得意としています。そのため、アプリケーションをゼロから設計して実装する経験は、開発エンジニアより少ない場合があります。
ただし、現在は両者の境界が以前より曖昧になっています。
インフラエンジニアにも、PowerShellやPythonによる運用自動化、Terraformなどを使ったIaC、APIを利用したサービス連携など、コードを扱う機会が増えています。
私自身もPythonを使った小さな自動化に取り組んでいますが、業務アプリケーションをゼロから開発するプログラマーとは、求められる知識や責任範囲が異なります。
IT業界で長く働いていても、すべての分野を実務で経験できるわけではありません。経験者であっても、担当業務の外にある設問については、用語や考え方を学び、過去問題を解くなどの試験対策が必要です。
ITパスポートは、「IT業界で働いていれば、何も勉強せずに合格できる試験」ではありません。自分が経験していない分野を補うための勉強コストはかかります。
転職ではITパスポートが評価されるのか
ITパスポートの評価は、応募者の経験によって変わると考えています。
| 対象 | 私の考え |
|---|---|
| 新卒 | ITへの関心と基礎学習の証明になる |
| 異業種からの未経験転職 | 履歴書へ書く意味がある |
| 社内の情シス異動 | 基礎知識を学んだ材料になる |
| インフラ案件への初参加 | 補助材料にはなるが決め手にはなりにくい |
| 経験者の転職 | 実務経験や担当工程の方が重視される |
| 現場メンバーのスキル確認 | 技術力の判断基準にはなりにくい |
新卒・未経験者には取得する意味がある
新卒や異業種からIT業界を目指す人には、取得する意味があります。
実務経験がない段階では、履歴書で示せる材料が限られます。その中で、ITパスポートを取得したことは、ITの基礎を学び、試験までやり切ったことを示す一つの材料になります。
もちろん、ITパスポートだけで転職できるわけではありません。それでも、何も準備していない状態より、IT業界へ入るために行動していることは伝えやすくなります。
経験者は実務内容の方が重要
経験者の場合は、ITパスポートよりも実務経験の方が重視されます。
たとえばインフラエンジニアなら、次のような内容です。
- 設計・構築・運用のどこまで担当したか
- どの規模の環境を扱ったか
- Cisco、FortiGate、Palo Altoなど何を扱ったか
- AWSやAzureにどの程度関わったか
- 障害対応で何を判断したか
- 顧客やベンダーとの調整経験があるか
資格名だけでは、現場でどのように行動できるかまでは分かりません。
40代未経験者は資格だけに頼らない
40代から未経験でインフラエンジニアへ転職する場合、ITパスポートを取得しただけで状況が大きく変わるとは考えない方がよいでしょう。
現在の仕事で情シスに近い業務へ異動する、PCやクラウド環境を実際に操作する、これまでのマネジメントや顧客対応経験を棚卸しするなど、資格以外の準備も必要です。
インフラエンジニアの仕事内容や未経験転職の現実については、次の記事で詳しく整理しています。
→ インフラエンジニアって実際どう?稼げる?未経験でもなれる?現役26年の本音
ITパスポートを取得しても、インフラエンジニアとして現場ですぐに活躍できるわけではありません。現場では、ネットワークやサーバの知識に加えて、障害の切り分け、手順書の作成、顧客との調整、分からないことを調べる力なども求められます。
それでも、IT業界全体の地図を知り、その後に自分が進みたい専門分野を決めるためのスタートラインとしては役立ちます。この位置づけで使えば、未経験者にとって十分意味のある資格です。
ITパスポートの勉強は無料から始めればよい
ITパスポートを勉強するために、最初から高額な教材やスクールを利用する必要はないと思います。
まずは公式情報と無料の問題演習を利用し、それだけでは理解できない部分が出てきたら、書籍やスクールを検討する順番がおすすめです。
1.IPA公式サイトで試験内容と過去問題を確認する
最初に、試験を実施しているIPAの公式サイトで次の項目を確認します。
- 試験の対象者
- 出題範囲
- 試験時間と出題数
- 合格基準
- 公開されている過去問題
- 現在のシラバス
ITパスポートは、ネットワークやセキュリティだけを勉強すればよい試験ではありません。試験範囲を先に確認すれば、何を学ぶ必要があるのかを把握できます。
2.無料の試験対策サイトで問題を解く
試験内容を確認したら、過去問道場で実際に問題を解きます。
- まず100問解いて現在の実力を確認する
- 正答率が低い分野を特定する
- 間違えた問題の解説を読む
- 同じ分野の問題を繰り返す
- 別の100問で再度確認する
大切なのは、問題数をこなすことだけではありません。正解した問題でも、ほかの選択肢がなぜ間違いなのかを説明できる状態にすると、関連問題にも対応しやすくなります。
→ ITパスポート試験ドットコム「ITパスポート過去問道場」
3.行き詰まったら書籍で体系的に学ぶ
問題と解説を読むだけでは理解しにくい場合は、ITパスポートの参考書を1冊使って体系的に学びます。
書籍のメリットは、個別の用語だけでなく、関連する知識をまとめて理解できることです。
たとえば、過去問で損益分岐点の問題を間違えた場合、解説だけではその問題の答えしか覚えられないことがあります。参考書で財務・会計の章を読めば、固定費、変動費、利益などの関係もあわせて確認できます。
書籍を選ぶときは、次の点を確認します。
- 現在のシラバスに対応している
- 図や具体例が多い
- 過去問題の解説がある
- 模擬試験を利用できる
- 自分が読みやすい文章で書かれている
最初から複数冊購入する必要はありません。参考書1冊と無料の過去問演習を組み合わせれば、十分勉強を進められます。
4.一人で難しいと感じたらスクールを検討する
ITパスポート試験だけが目的なら、公式情報、無料サイト、参考書で対応できる人も多いと思います。
スクールを検討するのは、次のような場合です。
- 一人では勉強を継続できない
- 質問できる相手がほしい
- ITパスポートの次にCCNAなどを学びたい
- 実際にネットワークやサーバを操作したい
- 未経験からITエンジニアへの転職支援も受けたい
スクールへ申し込めば、資格取得や転職が保証されるわけではありません。料金、受講期間、学習内容、年齢条件、違約金、就職支援の対象範囲などを確認してから判断します。
5.転職を考えたらITエンジニア向け転職エージェントへ相談する
資格を取得してから転職活動を始めなければならないわけではありません。
転職を考え始めた段階で専門の転職エージェントへ相談すれば、次のことを確認できます。
- 未経験者向けの求人があるか
- 自分の年齢で紹介可能な求人があるか
- ITパスポートがどの程度評価されるか
- 次に取得する資格は何がよいか
- 現在の仕事で生かせる経験があるか
- 研修付き求人があるか
- シフト勤務や客先常駐の可能性があるか
ただし、転職エージェントへ登録しても、求人紹介や転職成功が保証されるわけではありません。
特に40代の未経験転職は簡単ではありません。転職だけに絞らず、現在の会社で情報システム部門への異動を目指す、資格を取得する、自宅環境で実際に操作してみるなど、複数の選択肢を持つことが大切です。
ITパスポートの次に目指す資格
ITパスポートはゴールではありません。取得後は、目指す仕事に合わせて専門分野へ進みます。
| 目指す分野 | 次の資格候補 |
|---|---|
| ネットワーク | CCNA |
| Linux・サーバ | LinuC・LPIC |
| クラウド | AWS・Azureの基礎資格 |
| セキュリティ | 情報セキュリティマネジメント |
| IT全般・開発 | 基本情報技術者 |
資格の勉強と並行して、実際にPCやクラウド環境を操作し、手を動かした経験を作ることも重要です。
クラウド資格の選び方と学習順序については、次の記事で整理しています。
→ インフラエンジニアにおすすめのクラウド資格|ネットワーク経験者の学習順序
ネットワークの基礎から設計・試験まで学べる技術書は、次の記事で紹介しています。
よくある質問
ITパスポートはインフラエンジニアに必要ですか?
必須ではありません。資格がなくてもインフラエンジニアとして働けます。ただし、新卒や未経験者がITの基礎を学ぶ最初の資格としては意味があります。
ITパスポートを持っていれば未経験でも転職できますか?
資格だけで転職できるとは限りません。年齢、これまでの職務経験、コミュニケーション、学習状況、求人の条件なども見られます。ITパスポートは、転職準備の一つとして考えるのがよいでしょう。
経験者なら無勉強で合格できますか?
経験した分野は答えやすくても、実務で扱わない経営、法務、財務、アルゴリズムなどは別途学習が必要です。私も無勉強の演習では68%でした。本試験を受けるなら、経験者でも苦手分野の試験対策が必要だと感じます。
ITパスポートの勉強にスクールは必要ですか?
最初から必須ではありません。まずはIPAの公式情報、無料の過去問サイト、参考書1冊から始めればよいと思います。一人で続けられない場合や、CCNAなどの専門学習と転職支援まで必要な場合にスクールを検討します。
ITパスポートの次は何を取ればよいですか?
目指す分野によって変わります。インフラエンジニアを目指すなら、ネットワークはCCNA、Linux・サーバはLinuCやLPIC、クラウドはAWSやAzureの基礎資格が候補になります。
まとめ|資格を取ることより、次にどう使うかが重要
インフラエンジニア歴26年の私が、ITパスポートの過去問題100問を無勉強で解いた結果は68問正解でした。
実務で経験してきたネットワーク、セキュリティ、マネジメントは比較的答えられました。一方、経営戦略、企業活動、法務、財務・会計、アルゴリズムなど、担当業務から離れた分野には試験対策が必要だと分かりました。
ITパスポートだけで、現場の技術力を証明することはできません。経験者の転職や現場では、担当工程、扱った製品、障害対応、顧客折衝などの実務経験が重視されます。
それでも、新卒や未経験者がIT業界全体の基礎を学び、スタートラインに立つための最初の一歩としては、取得する意味があります。
まずはIPA公式サイトで試験範囲を確認し、無料の過去問サイトで現在の実力を知る。行き詰まったら書籍を使い、一人での専門学習や転職準備が難しければスクールや転職支援を検討する。
資格取得をゴールにせず、その後にCCNA、Linux、クラウドなど、自分が進みたい分野の学習と実践へつなげることが重要です。
参考資料
免責事項
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